【作品4】木を公然わいせつ罪から守ってみた
この街を全裸で歩いたら、まず通報される。
それから警察がきて、しょっぴかれて、私は犯罪者になるんだろう。
【公然わいせつ罪は、人前で全裸になった、陰部を露出したなどというように、「公然と」「わいせつな行為」を行った場合に成立し得る犯罪です。 刑法174条に規定され、罰則は「6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とされています。】
とかくこの世では何かしら布を身にまとって生活しなくちゃいけない。
それだけで面倒くさいのに、その上その布の形や色も、その人の属性やTPOとやらに応じて細かく「社会的な服装」というものが暗黙のうちに定められているようである。
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それなのに、ある日、公園を歩いていたら、全裸を見てしまった。
全裸のメタセコイヤの木。
あら大変、この社会では完全アウト。
この世の中では女の子なら女の子の服を、男の子なら男の子の服を着せなきゃいけないと言われているので、(google先生に)性別を聞いてみた。
「あなた、男の子?女の子?」
すると、雌雄同株だという。要は、一本の木に、雄の花も雌の花も咲くのである。
これは面倒臭い。なぜなら、この社会の戸籍には男/女という記載しかできないのだ。
となると、どちらかに決めなきゃいけない。
「どっちがいい?」
「何が違うの?」
「男なら男子トイレと男湯に入れる。女なら女子トイレと女湯に入れるよ。
間違えたら捕まるから気をつけてね。
あ、女だったら、少し無駄な枝が多いみたいだから手入れした方がいいかも…」
「トイレ使わないし、温泉にも入らないよ。放っといてよ」
「けど、この社会には、やっぱTPOってものがあるから。ここは公共の場なんだから、そんなんじゃダメだよ。」
サイコロを振ると「女」と出たので、私は、メタセコイヤを前科から守ろうという善意でレディースの古着をかき集め、「彼女」に着せてあげることにした。
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服を着せている最中、メタセコイヤは始終迷惑そうに枝を揺らしていたが、やがてとうとう諦めて押し黙った。
レディース服に身を包んだメタセコイヤは、着る前よりもずいぶんと可愛く女の子らしくなり、私は満足げに微笑んだのだった。